アメリカの発達心理学者エリクソンが提唱したライフサイクル論には、8つの発達段階ごとに課題と獲得要素が設定されています。この記事では、エリクソンの発達段階の特徴について解説しますので、子育てに悩みがある方はぜひ参考にしてみてください。
エリクソンとは?
エリクソンは、902年にドイツで生まれた、ユダヤ系デンマーク人の発達心理学者です。
北欧人種の父親から受け継いだ見た目から、ユダヤ系・ドイツ系社会の両方から差別を受けて幼少〜青年期を過ごしたとされています。この経験が彼の理論・思考形成に大きな影響を及ぼしたようです。
1939年にアメリカ国籍を取得し、問題行動を起こす青年の心理療法に携わり、その手腕が注目されるようになりました。アイデンティティーの概念へたどり着いたのは、境界性パーソナリティー生涯の患者に出会ったことがきっかけといわれています。
8つの発達段階の特徴を理解しよう
エリクソンが提唱した「心理社会的発達理論」は、ライフステージを8つの発達段階に区分しています。エリクソンは発達段階ごとに「心理社会的危機」があり、人は心理社会的危機を乗り越えるごとに力を身に付けると提唱しました。ここではそれぞれの段階について詳しく解説します。
乳児期(0歳〜)
心理社会的危機:基本的信頼対不信
獲得要素:希望
- 父母など特定の大人との間に愛着関係を作る
- 認知や情緒などが発達する
生まれたばかりの赤ちゃんは1人では生きられません。そのため泣くことで意思を示しながら、周囲の人に助けてもらい、成長していきます。周囲の大人から適切な世話をしてもらうことによって、関わる人との信頼関係が構築され、子どもは「希望」という力が育まれます。
しかし、いくら泣いても世話をされず愛情を注がれなかった子どもは、周囲の人間に不信感を抱き、希望を獲得できません。このような状況が続くと、今後の人生に大きな影響を与えるとされています。
乳幼児期(3歳〜)
心理社会的危機:自立性対疑惑
獲得要素:意思
- 道徳性や社会性を身に付ける
- 他者の存在に気づく
- 自立心・挑戦する意欲が育まれる
3歳頃は「イヤイヤ期」と呼ばれる自我が芽生える時期です。これまでは周囲の人が行ってくれていた身の回りの世話などは、成長とともに「自分でしてみたい」と挑戦したい欲求が高まります。
適切な機会があれば「もっとしてみよう」と挑戦する心が育まれ、さらに自分の「意思」を身に付けられるでしょう。
しかし、この時期に周囲の大人がサポートしすぎて挑戦する機会を奪ったり、失敗を非難したりすると、自律心が育たず、周囲に対して不信感を抱くおそれがあります。
幼児後期(3歳〜)
心理社会的危機:積極性対罪悪感
獲得要素:目的意識
- 知りたい欲求が高まる
- ロールプレイで目的や役割を知る
乳児後期は同じ世代の子どもとの交流が増え、外の世界への興味が高まる時期です。知りたい欲求が高まったり、何者かを演じるごっこ遊びを好んだりする傾向にあります。あらゆることに興味を持ち、経験することで「目的意識」が育まれます。
しかし、自発性・自主性からの行動に親がきちんと向き合わなかったり、しかりすぎたりすると、子どもの自発性・自主性が育まれにくくなります。そのため、自発的な行動を抑え過ぎないようにすることが大切です。
学童期(5歳〜)
心理社会的危機:勤勉性対劣等感
獲得要素:有能感
- 善悪の理解ができる
- 認識力が高まる
- 集団生活のルールを理解できる
学童期は小学校へ通い、学びからあらゆる能力を身に付ける時期です。さまざまな課題に取り組むことで成功体験を積み、「有能感」を獲得します。
もちろん、学ぶことには失敗やつまづきがつきものです。このときに周囲の大人がフォローせず、できなかったことを咎めてしまうと「自分はできない人間」だと劣等感を抱く原因となるでしょう。
とはいえ褒めすぎも考えものです。できたことを褒め過ぎず、できなかったことを責めすぎないバランスが重要です。子どもが自分自身で乗り越えられるように適切なフォローを心がけましょう。
青年期(13歳〜)
心理社会的危機:自我同一性対同一性の拡散
獲得要素:忠誠心
- 自分のあり方を問う
- 社会の一員としての生活力を身に付ける
- 法や決まりがある意味を理解する
青年期は「自分は何者なのか?」という問いを抱きやすく、「自分らしさ」や「何をしたいのか」などを思い悩む時期でもあります。
この時期に「自分は〇〇だ」と定義できる力が育てば、自分自身の価値観を信じて行動できるように成長します。このときに獲得する能力は、自分の価値観に対しての「忠誠心」です。
しかし、アイデンティティーを確立できなければ、自分自身の存在意義や「自分は何者なのか?」といった悩みが解消されず、モラトリアムから抜け出せません。
モラトリアムとは大人になり社会的責任を背負う前の猶予・免除期間としての意味に使われ、一般的には大学生(18〜22歳)の期間を指します。
社会的集団に属し役割を得て、周囲の人から必要とされていると実感を得ることが、アイデンティティーの確立に欠かせません。
成人期(20歳〜)
心理社会的危機:親密性vs孤立
得られる要素:愛
- 子孫を生み育てる
- 自分より若い世代を育てることによって人格が発達する
- 次の世代を導く
成人期は、友人や恋人など親密な人間関係を構築する時期です。相手に受け入れられることや、信頼関係を築くことによって「愛」を感じます。
しかし、成人期に親密な人間関係を上手く確立できないと孤独感を覚えてしまうでしょう。その結果、心理的成長が阻害されるおそれがあります。
壮年期(40歳〜)
心理社会的危機:生殖vs自己吸収
得られる要素:世話
- 後世へ貢献する
- 後進を指導する
- 次世代を見据えた行動をする
壮年期は、次の世代を育むことに関心を持つ時期です。生殖性が課題となり、自分の子どもだけではなく社会的業績や新しいものの創造など、何かを次の世代に残すことに強い関心を持ちます。
もし次の世代への貢献ができず、自分自身にしか関心が持てなければ、自己没頭に陥るおそれがあるでしょう。自己没頭とは、バートランド・ラッセルの「幸福論」で不幸になる原因の1つとされ、自分の心の中に不幸な世界観を作り、閉じこもることを指します。
老年期(65歳〜)
心理社会的危機:自己統合vs絶望
得られる要素:英知
- 人生の意味を見い出す
- 人生に折り合いをつける
- 伝承していくことの重要性を理解する
老年期は、これまでの人生を振り返る時期です。この段階で今までの人生を肯定できると「英知」を得られます。
しかし、過去の人生を振り返って絶望感を抱き、老いることに不安を持ってしまうと、絶望感を抱きやすいでしょう。
エリクソンの発達段階を理解するメリット
エリクソンの発達段階を理解すると、子どもの状態をより把握しやすくなったり、子どもらしさを伸ばしやすかったりといったメリットがあります。
エリクソンは発達段階を「各時期での課題を克服することで次の段階に進める」と説明しています。発達段階の視点から捉えると、子どもの行動を理解しやすいでしょう。
親は、自分の子どもに対して「自分らしくいきてもらいたい」と願うものです。子どもが成長するごとに、周囲の大人がエリクソンの発達段階を理解していると、適切にサポートをしやすいでしょう。
まとめ
エリクソンの8つの発達段階について解説しました。人生は課題を乗り越えながら日々成長を重ねていきます。特に心の成長は目に見えないため、日々の行動や表情から捉えると良いでしょう。
子どもの行動を理解できないときに頭ごなしにしかるのではなく、発達段階の視点から捉えると、解決の糸口が見つかるかもしれません。
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